2015年12月26日土曜日

匂いの長続きする柔軟剤に含まれることがある猛毒のイソシアネート

 最近の残香性が強い柔軟剤で体調不良になる(咳、頭痛、我慢できない眠気やだるさ、複視等)原因を調べています。最近地方の新聞に猛毒で欧米では規制されているイソシアネートという物質が検出されたという記事が出ていましたので、調べた情報をお知らせします。

2013.02.03
トルエンジイソシアネートのMSDS(職場のあんぜんサイトより)を追記
「長期に亘って頭痛、健忘、集中力欠如、錯乱、人格の変化、易刺激性、鬱のような中枢神経系に対する影響」という記述に注目

2016.01.12
「IgE感作を認めない症例の方が気道過敏症や喘息症状の程度が強いことが知られている」という資料を末尾に追記しました。


イソシアネートの毒性はトルエンの一万倍、青酸ガスの1千倍
 Wikipediaによると、イソシアネートの中でも一番使用されているTDI(トルエンジイソシアネート)の毒性は以下の通りです。→リンク

・TDIの過剰暴露は、喘息へとつながる可能性のある呼吸器系への影響を引き起こすので、許容濃度を厳守する必要がある。

一度喘息を起こしてしまうと、ジイソシアネートに対して過敏となり、許容濃度以下であっても再び喘息となる。TDIの蒸気、エアゾール或いはミスト眼刺激を引き起こす。

・TDIは中程度の皮膚刺激性を有しており、稀に皮膚感作や皮膚炎を起こす。

・TDIを口から摂取した場合の毒性はあまり大きくはないが、吸入による摂取では毒性が現れる


 また、日本産業衛生学会の「許容濃度等の勧告(2015年度)」→リンク
によると、皆さんご存知のトルエン(シンナーの主成分)や青酸ガスと比べてその恐ろしさが分かると思います。

トルエン(シンナーの主成分)   50ppm(百万分の50)
トルエンジイソシアネート類(TDI)  0.005ppm
シアン化水素(青酸ガス)       5ppm

また、これらの混合物質の許容濃度は

 成分Aの平均暴露濃度    成分Bの平均暴露濃度
 ---------- + ---------- + ・・・
 成分Aの許容濃度       成分Bの許容濃度

の様に個々の許容濃度のみで判断してはならないとあります。従って、トルエンジイソシアネートとシアン化水素等に暴露された場合は、更に厳しいものとなります。

 寒くなり良い匂いの長続きするジイソシアネートを含む柔軟剤で洗ったシーツを被って寝たら、どういう事になるか、容易に想像できます。


<トルエンジイソシアネート(Toluene diisocyanate)のMSDS> 職場のあんぜんサイトより

特定標的臓器・全身毒性
(単回ばく露): ヒトについては、眼、気道、皮膚に対する刺激性、激しい乾性の咳、喀痰、胸部絞扼感、呼吸困難、悪心、嘔吐、重篤な気管支痙攣を伴った気管支炎、肺水腫、肺炎など が報告されている。 21)
    ヒトについては、さらに「長期に亘って頭痛、健忘、集中力欠如、錯乱、人格の変化、易刺激性、鬱のような中枢神経系に対する影響」が見られ 21)、また「高揚感、運動失調、断続的な四肢の痙攣、めまい、意識消失、頭痛、集中力欠如、記憶障害、混乱、被刺激性、抑うつ」等の記述がある。 33)
    呼吸器、中枢神経系の障害(区分1)

  特定標的臓器・全身毒性
(反復ばく露): ヒトについては、「喉への刺激性、呼吸困難」等の記述がある。 33)
    実験動物については、「鼻腔の炎症、間質性肺炎、カタル性気管支炎、気管炎、気管支炎、肺炎に伴って細気管支壁における線維組織の増生」の報告がある。 21)
    また、実験動物では「肺、気管、肝臓で被験物質投与によると考えられる変化が観察され、気管支肺炎、肺の気管支上皮の再生像及び線毛消失、肝臓の脂肪化」が見られたとの報告がある。 53)
    実験動物に対する影響は、呼吸器への影響が区分1、肝臓への影響が区分2に相当するガイダンス値の範囲でみられた。
    長期又は反復ばく露による呼吸器の障害(区分1)

    長期又は反復ばく露による肝臓の障害のおそれ(区分2)


<イソシアネートが柔軟剤から検出>
(ある種の)柔軟剤から欧米規制物質のイソシアネートが検出されたというのが、常陽新聞に載っていました。常陽新聞の記事→リンク

 また、柔軟剤メーカーの特許にイソシアネートを使用すると書かれているものがあります。
L社の特許でマイクロカプセル(この中に香料を入れて衣類着用時にカプセル壁が破壊され匂いを発する)の壁物質としてイソシアネートが使用されることが例示されています。→リンク
リンク先の詳細説明 【0016】 [(a−2):壁物質]の所です。

<イソシアネートの検出は難しい>
 スペインの安全衛生組合の資料にイソシアネート暴露の危険に関する資料が有りました。
 その中に職場環境中のイソシアネートのサンプリングとHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による分析の信頼できる方法が記載されていました。→リンク(スペイン語)

 ピリジル ピペラジン 試薬を染み込ませたガラス繊維のフィルターを用いる等、条件が書かれています。(私はHPLCは素人なので、この訳は正確でないかもしれない)
 また、イソシアネートにさらされた労働者にしばしば観察される症状の兆候の分布が以下の様に書かれています。

A.気管支喘息    49%
B.慢性気管支炎  14%
C.鼻炎        14%
D.慢性の肺閉塞症  9%
E.結膜炎        8%
F.蕁麻疹        2%
G.湿疹         2%
H.発熱         2%


 また、ここで出て来る”pyridyl piperazine”とHPLCをキーワードとして検索すると、神奈川予防医学協会でこの有効性を確認した論文が出ていました。
TDI測定における1-(2-pyridyl)piperazineを用いたHPLC法に関する検討(第151回関東地方会例会)
リンク(日本語)

これによると、定量下限は約0.5ngで、分解能、定量感度が良好で、共存物質の影響も少なく、TDIの分析法としての有用性が認められたとあります。

HPLCのやさしい解説は、日本分光という会社の技術情報「HPLCの基礎」が素人にも分かり易いです。→リンク

 イソシアネートに対するアレルギー検査は職業病診断として確立していますが、一般的ではなく、近くのアレルギー科を謳っている医院に聞いたら、健康保険では・・・という事で警戒されて、自費でならOKという事でした。

 しかし、以下の資料を見たら、自費で検査を受けなくて良かったと思いました。お金の無駄になるところでした。 2016.01.12追記

 イソシアネートによる職業喘息では抗原特異的なIgE抗体の認められる症例(感作例)は10~20%と言われているそうです。更にIgE感作を認めない症例の方が気道過敏症や喘息症状の程度が強いことが知られているそうです。以下の日本職業・環境アレルギー学会総会 特別講演の資料を参照して下さい。→リンク

 ちょっと古いですが、以下の日胸疾会誌に有る症例もイソシアネートの抗原としての安定性に問題を投げかけています。リンク